自分が働いているオフィス内の温度や湿度を把握していると、自信を持って言える人は少ないでしょう。オフィス内の温度や湿度は生産性と深いかかわりがあるとされています。また、いったいどのような関係性があるというのでしょうか。今すぐにできる、簡単な方法もあるので、影響とともに解説していきます。
会社は従業員が快適に過ごせるような職場環境を整えなくてはなりません。これは、労働者を守るための労働安全衛生法によって定められています。
また、1992年に発行された快適職場指針によると、実際に会社側が職場環境の整備を実施するよう、4つの項目が記されています。そのうちの一つに「清潔な空気の確保やオフィス内を適温に管理することなど、オフィス内の環境を整えること」があります。
オフィス内の温度や湿度を管理する必要がある理由は、法律によって定められているからという理由だけではなく、実際にこれらの環境が悪化していると、従業員のパフォーマンスが低下し、生産性が落ちる可能性があるとされているためです。具体的にどのような関係性があるのでしょうか。
2005年にコーネル大学の3名の教授がフロリダの保険会社でパソコン作業を行い、仕事をしている女性を対象に調査を行いました。調査は16日間かけて15分おきに室温と9名の仕事の生産性を調べるという内容でした。その結果、室温が20度から25度に上昇すると、タイピングミスが44%減り、タイピングの文字数が150%増加したといいます。
別の調査で、空気調和・衛生工学会大会が発表したものがあります。その内容は、とあるコールセンターで通年実測した約13000人の1時間あたりの平均応答件数と室温の関係です。そこでは室内温度が25度から26度に1度上昇すると、作業効率が2.1%低下するというものでした。
コーネル大学の調査結果では温度と生産性の関係性が証明されましたが、早稲田大学理工学総合研究センターでは、温度だけではなく湿度も生産性にかかわることが実験結果により判明しています。
同大学の客員研究員の堤氏によると、湿度が35%以下になると、乾燥により不快を感じるようになるとされています。さらに湿度が低い環境下では瞬きの回数が増加することが分かっており、このことから視覚によるデータ収集が必要なタスクについて、生産性が低下するという結果が出ています。
さらに、湿度が低下すると、肌のかゆみを感じるだけではなく鼻水、鼻づまりに加え、喉の痛みやくしゃみ、咳なども発生しやすくなるため風邪にかかりやすくなってしまいます。単に過ごしにくいオフィス環境になるというだけに止まらず、健康被害が発生する可能性があるため注意が必要です。
しかし、湿度が高ければ高いほど良いというわけでもありません。湿度が高いと、汗が出にくくなり、不快に思うようになるとされています。具体的な数字を挙げると、湿度が70%になると、疲れを感じやすくなるといわれているため、注意が必要です。
温度や湿度について適切に管理できていないと、従業員の生産性が落ちてしまいます。では、オフィス内の環境として適切な温度や湿度はどのくらいを想定すれば良いのでしょうか。ロンドン大学の調査結果によると、生産性が最も向上する温度は22~24度とされています。
しかし、ヘルシンキ工科大学とローレンス・バークレー国立研究所が共同で発表した研究結果によると、一般的な職場では22度が適温だとされています。
オフィスの適温について様々な意見があるのは、仕事の内容により適温が変化するためという意見もあります。では、職業によって適温はどのように変わるのでしょうか。
デンマーク大学のディビット・P・ウィン教授によると、暖かい環境のほうが創造しやすくなるとされています。そのため、デザイナーや作家、ディレクターやコピーライターをはじめとしたクリエイティブな仕事に就いている人は、室温を高めに設定したほうが良いようです。
文書の作成・処理を行ったり、簡単な計算や電話業務を行ったりと、一般的なオフィスワークをしている人が多い職場の適温は22度とされています。30度のときと比べ、22度のときの生産性は8.9%向上するという結果が出ています。
しかし、具体的に生産性の変化がみられるのは25度を超えた場合であって、21度~25度の間では、特に大きな変化や影響は見られないという結論となっています。
グループでのプロジェクト進行など、複数名が協力し合って作業を進める場合は、暖かい環境のほうが良いとされています。
室温自体を変動させなくても、温かいお茶やコーヒーを飲み、手先や体を温めるといった対策でも効果を発揮するといわれています。これは体を温めることで他者に対し、思いやりを持ったり寛大になれたりすると考えられているためです。
生産性を向上させるための最適温度は仕事内容により変動するとされています。しかし、オフィス内の温度や湿度は、法律で定められた範囲内でキープする必要があるので注意が必要です。
オフィス内の温度や湿度については、厚生労働省が発表している「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」と「事務所衛生基準規則」により定められています。これらの法律では、室温については17度以上28度以下、湿度については40%以上70%以下にキープするよう示されています。
さらに、職場快適基準として、夏の間は24度~27度、冬の間は20度~30度、50%~60%の湿度に保つよう推奨されています。
従業員の生産性が向上する温度や湿度を把握しただけでは、職場環境の改善ができているということはできないでしょう。理想的な温度や湿度をキープするためには、実際にどのような対策を取れば良いのでしょうか。
快適な職場環境を構築するためのはじめのステップとして、温度計や湿度計を用意することが重要です。冷暖房や空調機のスイッチ部分に温度や湿度が表示されているというケースは多いでしょう。しかし、定期的に温度や湿度をチェックする機会はそれほど多くはありません。
従業員が明確に温度や湿度を把握し、進んで調温・調湿ができるようにまずは見える位置に温湿度計を用意することが大切です。また、この他にもいくつかの対策方法があります。
冷暖房や空調機が設置されていないオフィスはほとんどないでしょう。しかし、加湿器や除湿器は自分たちで設置しなければならない場合が多いため、湿度を調整できる環境が整っていないという会社もあるでしょう。
せっかく湿度計を設置しても、適切な数値になっていない場合に調整できるすべがなくては意味がありません。まだ設置していないオフィスにいる人は、購入の提案をしてみると良いかもしれません。
調湿対策として有効なのは加湿器や除湿器を設置するという方法だけではありません。コストを抑えたいのであれば観葉植物を置いてみてはいかがでしょうか。植物は土から吸い上げた水分を葉から蒸発させるため、湿気が発生します。景観が良くなるという利点もあるため、おすすめの方法です。
一般的に暖かい空気は上部にたまりやすく、冷たい空気は下部にたまりやすいという性質があります。そのため、ただ単に冷暖房機を使用しているだけでは、「暖房をつけているはずなのに足元は寒い」など、十分な効果が得られないケースが多いです。
このような状況を解決するには、室内の空気を循環させることが大切です。この時活躍するのが扇風機です。扇風機で室内の空気をかき混ぜることで、部屋の温度を均一に保つことができるとされています。
法律によりオフィス環境における適温や適切な湿度が定められてはいますが、これらについて万人が快適と思うかどうかについてはまた別の話です。
例えば女性は男性よりも基礎代謝量が少ないとされているため、男性に比べ寒さを感じやすいとされています。これにより、適温は男性よりも3度高くなるはずという調査結果も発表されているほどです。
また、加齢により筋肉が衰えると、代謝が落ちやすくなるとされています。筋肉量が減少したり、代謝が低下したりすると、寒さを感じやすくなると言われているため、年齢により快適と思う環境が変わるという意見もあります。
会社は従業員が快適に過ごせるよう、オフィス環境を整えなければなりません。オフィス環境は室温や湿度も含まれるため、快適な室温や湿度をキープできるよう、まずはオフィス内に温湿度計を設置するところから始めてみましょう。
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